用語集
本書中に出てくる主要な用語を、ここに集めました。本文を読んでいて分からない用語に出会ったら戻ってくる、索引的な使い方を想定しています。アルファベット順と五十音順の二系統で整理し、末尾に略語一覧を添えてありますので、馴染みのある入り口から引いてみてください。
アルファベット順
- ACT-R(Adaptive Control of Thought–Rational):John R. Anderson が提唱した統合的認知アーキテクチャです。プロダクションルールに基づいて認知プロセスをモデル化します。
- AIED(Artificial Intelligence in Education):教育への人工知能の応用を研究する学際分野です。
- Bloom's Taxonomy:Benjamin Bloom らによる教育目標の分類体系です。原版(1956)は「知識、理解、応用、分析、統合、評価」の 6 段階で、改訂版(Anderson & Krathwohl, 2001)では「記憶、理解、応用、分析、評価、創造」の 6 段階に整理されています。
- CBM(Constraint-Based Modeling):制約ベースモデリングです。違反してはならない制約(構文的制約・意味的制約)を定義し、学習者の解答が制約に違反していないかをチェックする手法を指します(Ohlsson, Mitrovic)。
- Cognitive Apprenticeship:認知的徒弟制です。モデリング、コーチング、スキャフォルディングとフェーディング、アーティキュレーション、リフレクション、エクスプロレーションの 6 つの教授方法を通じて認知スキルを教える教授法を指します(Collins, Brown, Newman)。
- Cognitive Load Theory:認知負荷理論です。ワーキングメモリの容量制約を考慮した教授設計の理論で、内在的(intrinsic)・外在的(extraneous)・関連的(germane)の 3 種の負荷を区別します(Sweller)。
- EDM(Educational Data Mining):教育データマイニングです。機械学習やデータマイニング手法を教育データに適用する分野を指します。
- GOMS(Goals, Operators, Methods, Selection rules):認知タスク分析の手法です(Card, Moran, Newell, 1983)。ユーザの認知プロセスを目標、オペレータ、方法、選択規則に分解します。
- IRT(Item Response Theory):項目反応理論です。テスト項目への反応から、学習者の能力(および項目の困難度・識別力など)を推定する統計理論を指します。
- ITS(Intelligent Tutoring Systems):知的学習支援システムです。学習者の状態を診断し、適応的に教授するコンピュータシステムを指します。
- Knowledge Tracing:知識追跡です。学習者の各スキルの習得確率を、応答に基づいて逐次更新する手法で、代表例は BKT(Bayesian Knowledge Tracing, Corbett & Anderson, 1995)と DKT(Deep Knowledge Tracing, Piech et al., 2015)です。
- LA(Learning Analytics):学習分析です。学習者と学習文脈に関するデータを収集・分析し、学習を理解・最適化する手法を指します。
- LLM(Large Language Model):大規模言語モデルです。GPT 系・Claude などのように、大量のテキストで訓練された深層学習モデルを指します。
- Metacognition:メタ認知です。「認知についての認知」と表現されるように(Flavell, 1979)、自己の認知プロセスを監視・制御する能力を指します。
- Model Tracing:モデルトレーシングです。学習者の問題解決ステップを、エキスパートモデル(プロダクションルール群)と照合する診断手法を指します(Anderson)。
- Ontology:オントロジーです。ある領域における概念とその関係を形式的に定義したものを指します。
- Productive Failure:生産的失敗です。十分な支援なしに難しい問題に取り組ませ、その後で正しい解法を教えることで、より深い理解を促す教授法を指します(Kapur, 2008)。
- Scaffolding:スキャフォルディング(足場かけ)です。学習者が自力ではできない部分を一時的に支援することを指します(Wood, Bruner, Ross, 1976)。
- Schema:スキーマです。概念や状況についての構造化された知識の枠組みを指します。
- SRL(Self-Regulated Learning):自己調整学習です。学習者が自分の学習を計画・監視・制御することを指します(Zimmerman)。
- ZPD(Zone of Proximal Development):発達の最近接領域です。支援があればできることと、自力でできることの間の領域を指します(Vygotsky)。
五十音順
- 意味ネットワーク(semantic network):概念をノード、概念間の関係をリンクとして表現する知識表現手法です。
- エキスパートシステム(expert system):専門家の知識を形式化し、推論を行う AI システムです。MYCIN などが代表例として知られます。
- オーバーレイモデル(overlay model):学習者の知識を、専門家知識の部分集合として表現する学習者モデルです。
- オープン学習者モデル(open learner model):学習者に自分の理解状態を可視化する手法で、メタ認知を促進します。
- オペラント条件づけ(operant conditioning):行動の結果(強化・罰)によって行動の生起頻度が変化するという学習理論です(Skinner)。
- オントロジー工学(ontology engineering):オントロジーを体系的に構築する方法論です。
- 概念知識(conceptual knowledge):宣言的知識(declarative knowledge)の一種で、「〜とは何か」「〜は〜である」という形式の知識を指します。
- 学習者モデル(learner model):個々の学習者の知識状態、理解度、スキルレベルを表現したものです。
- 形式化(formalization):暗黙的で曖昧な知識や認知プロセスを、明示的で厳密な形式で表現することを指します。
- 構成主義(constructivism):学習者が能動的に知識を構成するという学習観です(Piaget, von Glasersfeld など)。社会的相互作用を強調する立場(Vygotsky)は社会的構成主義と呼ばれます。
- 古典的条件づけ(classical conditioning):中性刺激と無条件刺激の対提示による学習です(Pavlov)。
- 誤概念(misconception):学習者が持つ体系的な誤った理解を指します。
- 中間表現(intermediate representation, IR):形式化した認知やドメインの記述を、特定のシステムの内側に閉じ込めず持ち運べるようにした表現です。計算機が処理でき(計算可能性)、別の環境に移しても再利用でき(可搬性)、専門家が読んで意味を取れる(解釈可能性)という三つを同時に満たすことを目指します。第 6 章で詳しく扱います。
- 中間表現アプローチ:本書が取る立場です。認知的教育AIの知見が分野として積み上がるかどうかは、認知の記述を各システムの内側に閉じ込めず、共有できる中間表現として設計できるかにかかっている、という見方を指します。詳しくは 本書の見取り図 を参照してください。
- ドメインモデル(domain model):ITS において、教えるべき内容の知識を表現したものです。
- 認知革命(cognitive revolution):1950〜60 年代に起きた、行動主義から認知主義へのパラダイム転換を指します。
- 認知タスク分析(cognitive task analysis):タスク実行時の認知プロセスを体系的に分析する手法です。
- 認知的徒弟制(cognitive apprenticeship) → Cognitive Apprenticeship を参照してください。
- 認知負荷(cognitive load):学習時にワーキングメモリにかかる負荷で、内在的・外在的・関連的の 3 種類に分類されます。
- バグモデル(bug model):学習者の体系的な誤りを明示的にモデル化した学習者モデルです(Brown & Burton, 1978)。
- フィードバック(feedback):学習者の応答に対する情報提供を指します。正誤、正答、精緻化など種類はさまざまです。
- フェーディング(fading):学習が進むにつれて支援を段階的に減らすことを指します。
- フレーム(frame):ある概念や状況についての構造化された知識表現で、スロットと値を持ちます(Minsky)。
- プロダクションルール(production rule):IF-THEN 形式の知識表現で、「もし P ならば Q を実行する」という形を取ります。
- プロトコル分析(protocol analysis):タスク実行中の発話(think-aloud)や行動を記録・分析する手法です(Ericsson & Simon)。
- マルチメディア学習理論(multimedia learning theory):テキスト、図、音声などを統合した学習環境の設計原理です(Mayer)。
- メタ認知(metacognition) → Metacognition を参照してください。
- モデルトレーシング(model tracing) → Model Tracing を参照してください。
- 有意味学習(meaningful learning):新しい知識を既存の認知構造に関連づけて統合する学習です(Ausubel)。
- ワーキングメモリ(working memory):情報を一時的に保持・操作する記憶システムです。短期記憶のチャンク容量はおよそ 7±2(Miller, 1956)とされ、より純粋な保持容量は約 4 チャンク(Cowan, 2001)と推定されています。
略語一覧
- ACT-R:Adaptive Control of Thought–Rational
- AIED:Artificial Intelligence in Education
- BKT:Bayesian Knowledge Tracing(ベイジアン知識追跡)
- CAI:Computer-Assisted Instruction
- CBM:Constraint-Based Modeling(制約ベースモデリング)
- CCS:Computational Cognitive Schemas(計算論的認知スキーマ)
- CoP:Community of Practice(実践コミュニティ)
- CTA:Cognitive Task Analysis(認知タスク分析)
- DKT:Deep Knowledge Tracing(深層知識追跡)
- EDM:Educational Data Mining(教育データマイニング)
- GOMS:Goals, Operators, Methods, Selection rules
- HCAI:Human-Centered AI(人間中心の AI)
- HCI:Human-Computer Interaction
- IR:Intermediate Representation(中間表現)
- IRT:Item Response Theory(項目反応理論)
- ITS:Intelligent Tutoring Systems(知的学習支援システム)
- KST:Knowledge Space Theory(知識空間理論)
- LA:Learning Analytics(学習分析)
- LAD:Language Acquisition Device(言語獲得装置)
- LLM:Large Language Model(大規模言語モデル)
- LMS:Learning Management System(学習管理システム)
- LPP:Legitimate Peripheral Participation(正統的周辺参加)
- MOOC:Massive Open Online Course
- OWL:Web Ontology Language
- RCT:Randomized Controlled Trial(ランダム化比較試験)
- RDF:Resource Description Framework
- SRL:Self-Regulated Learning(自己調整学習)
- UI/UX:User Interface / User Experience
- XAI:Explainable AI(説明可能 AI)
- ZPD:Zone of Proximal Development(発達の最近接領域)